題字「星」274

自立にめっぽう憧れて一人暮しを始めた重度の障害者がおりました。不便なことも数多くありましたが一人ボッチの食事の味気なく、おいしくないことにたじろぎました。 料理の支度をして食べる日は努力がむくわれない味気なさが募り、なおさら喉をとおらない思いでした。 そこで考えました。
オムスビにして外で食べてみよう。
早速オムスビをにぎるとビニール袋に入れ、玄関にむかって投げました。 それからイザって電動車椅子に乗り外出しましたが散歩コースの田園も今やアパートや家が建ち並び車椅子を止めて食事をとるのもままならない環境でした。 やっと土の香る畑を見つけてその前てオムスビをかじりました。 彼の前を大人や子供が通りました。
彼の眼に泪がにじみました。 しかし、オムスビはおいしかった。いく日ぶりかの米の味でした。家の中だとおいしくない物が自然の中だと夢のようにおいしい。 大発見でした。 太陽が光り風がなびく、彼は自然の中に母の胸に似た安らぎを感じてホッと息をつくのでした。
この日から自然は彼の守護神となり、畑の前の狭い面積が唯一の甘えを許してくれる場所となったのでした。こうして彼の毎日は続きました。

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