題字「星」305

「きっとこれが最後になるでしょうから、お会いしたいですね」枝見先生から90周年記念祝賀会への誘いの電話でした。いつも変わらぬ生き生きとした声にりんとした姿が浮かんできました。
それから数日後、信じ難い、信じられない悲報です。その日の真夜中、私は電動車椅子で気づかれぬ様外出しました。 親しい人の訃報の夜、私流の通夜なのです。音一つない静かな夜ふけ、なにものにも邪魔されず枝見先生の永遠の讃歌を星空に見つづけたいと願いつつ、「ヤー太田君」と、両手さしのべ枝見先生がにこやかな笑顔で私にむかいやってくる・・・必ず・・・ 月光が舗道に影を落とし月と星だけが私を追いかけてきます。 月も星も昨日とまったく変わらないのに・・・ でもあの角さえまがれば郊外のキリストの絵のように影を落として先生はたたずんでいる。 そして、絵の場面の様に二人で並んで話すのだ、今夜こそおじけずに深い会話を。
そう思って車椅子を走らせ続けたのでした。
月は雲にかくれ又表れ、幾10年、誕生の日も亡くなる日も、この寂しさを理解して下さる人を又、一人、失いました。

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