題字「星」306

ここ数年ご老人のジョギングがさかんです。宵やみせまった道で幾組かの老人と挨拶を交わしながらの散歩です。でも、私の散歩はエネルギーの消費にならず、足腰の為にならず、悔しいナーと、老人を見上げることもあるのです。
さて、拓磨君は大地主の息子です。広い畑のむこうがわに琢磨君の家が見えるのです。
夕方、散歩の途中、きまって広い畑の前で私は立ち止まるのです。 ほのかな燈の下で拓磨君の一家団欒が影絵のように見えるのです。 私を見つけて、その影がとび上がり、そのせつな大声が響きわたります。「絵のせんせいー」ジョギング中のおばあさんが羨まし気にふりかえっていいました。「いいですネー。声をかけてくれる人が居て。」
ささやかな私の人生でおいかけてくる子供の声は野辺の花を見る喜び慰めです。
畑のあぜ道を琢磨君が湯上りの姿すがしく私めがけかけて来ます。

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