題字「星」313

私が誕生した頃は戦争一色で、車椅子も福祉も忘れさられた時代でした。1、2年は医者にも通いましたが、その後は家の中に幽閉されて、といった具合で、長い月日が過ぎ去りました。 母に背おわれてバスや電車を乗りつぎ、生まれて初めて街に出たのは10才頃のことでした。戦後復興したとはいえ今と比べようもない貧弱な街並みだったと思いますが、村の鼠で井の中の蛙の私の目には、きらびやかで眩しく美しく、たとえ様もない素晴らしい街の風景に思えたのでした。
今でも街に出る度に、この折りのことを、驚きと感動を、思い出します。
あの店に寄って、この店に入ってショーウィンドウを鑑賞しつつブラッと商店街を散策したらどんなにか楽しい事か、特に湯上がり、ゆかたで歩いたら、叶わぬ夢です。
書き忘れましたが、生まれて初めて街に出たあの日の夜のことを、驚いた事に私の体に車の走行感が残り床に入ってからも、夢の中でも、私の体は延々と朝まで走り続けたものです。

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