星の子キャラクター『星の子』讃

 『星の子』は、子供たちと自然をこよいなく愛する画家・太田利三氏が30年以上にわたって描き続けている執念の作品である。4コマ漫画の形式をとってはいるものの、ここで描き出そうとしているものは明らかに、純粋で無垢なる魂の描写という太田氏の画家としての最大テーマに他ならない。
 太田氏の絵画を見た人なら誰でも、その中に溢れている作者への「生なるもの」への暖かいまなざしに不思議と心安らいだことがあるに違いない。それは、他の作家が熟練の技を駆使して作り出した作品とはまったく異次元の世界である。技術ではなく、理論でもなく、そこに流れるのは人間・太田利三によって口ずさまれる人間賛歌。身体の障害ゆえに妨げられたる歴史でもあった自分の過去の人生からたどり着いた、悟りの境地に近いものなのである。
 それにしても、なんと太田氏の歌声は軽やかで、優しいのであろう。太田氏は、画家としての自分自身の存在価値をとるに足りないものだと謙遜する。自分は生きることに精一杯で、残念ながら画業に本気で専念する時間をほとんど持つことができなかったのだと。けれども、私たちが太田氏の作品に求めているものは、世俗世界の価値基準では決して推し量れないものなのではあるまいか。
 私たちは、作品を通じて作者の心に触れたいと思う。心が荒涼としたとき、作者に語りかけてみたいと思う。そうすれば必ず素敵なあの笑顔で、私たちに生きることの尊さと、人々への優しい思いやりを持つことの大切さを説いてくれるはずだから。これこそ、太田氏の作品の中に宿る最大の価値なのである。
 『星の子』は、太田氏の絵画の中でも純粋なる心をストレートに描いている点において、最も太田氏らしい作品であると位置づけることができる。形式的には確かに漫画であるものの、内容的にはこれは叙情詩だ。しかし、細かい解説はいらない。自然と子供たちに囲まれて生活することを至上の楽しみとする太田ワールドを、『星の子』で気軽に、そして存分に堪能しようではないか。

戸原一男(アートビリティ(旧称:障害者アートバンク)運営委員長)



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